足が、とまった。
堂本くんたちがいた家。
「上原」の表札。
「たばこ」の看板。
赤いポストと郵便局。
道は、まっすぐに伸びて、
道のわきに、雑木林。
木々の向こう、
この中は、確か。
覚えていた。
確信があった。
この中には、きっと、
足が、動いた。
体は、震えた。
木々の中へ、足を踏み入れた。
行かなければ。
「彼女」から、逃げるわけにはいかない。
暗い森は、何も見えない。
それでも、まっすぐ、迷わず。
知ってる道だった。
きっと、ここを通って逃げてきたんだ。
私と「彼女」は。
足が、とまった。
木、木。風が吹いて、ざわざわ揺れる。
どこからか、鳥の鳴き声。夜に囁く、鳥の声。
闇夜の中で、周りは木しかない。木の向こうは、暗くて見えない。
――ごめん、理恵。
「ごめん。さよ」
「ごめんね……」
かすかな記憶が教えている。
私はきっと、小夜子とずっと一緒にいて。
ここで何かがあって、
私は気を失い、小夜子は死んで。
「ごめんなさい」
覚えていなくて、ごめん。
ここで目を覚ました時、貴方から逃げ出してごめん。
きっと、助けてくれたのに、
何も覚えていないなんて。
拳銃を持っていた。
彼女も。
なら、引き金に指をかけたのだろうか。
撃ったのだろうか。
目を覚ました時、私は拳銃を持っていなかった。
「嫌な役、おしつけちゃってたんだね」
ありがとう。護ってくれて。
あとはもう、私がやるから。
もう、ゆっくり、休んで。
立ち上がって、小夜子から離れる。
小野寺隼人。
長谷朱美。
横たわるのは、二人の死体。
「殺し合いなんて、なんでみんなしたんだろ」
わからない。
覚えていない。
けれども、あったのは事実で。
私も参加したのかもしれないのも事実で。
今、しなければならないのも事実で。
長谷朱美は折りたたみナイフを持っていた。
小野寺隼人は、大きな銃を持っていた。
二丁の拳銃を身にまとって、
地図を見て、
方位磁石を確認して、
少し歩いて、振り返った。
夜の森の中では、彼女たちは、もう見えない。
夜の森を、しばらく見つめて、
そして再び歩き出す。
再び足を出したその瞬間、
私はやっと、涙を流した。