何かが、私の頬を触れた。
起きて。
誰かが言った気がした。
「……………………夢……?」
私は目を覚ます。
目を開けると日差しが容赦なく降り注ぎ、私は目を細め、手をかざす。
赤い光、赤い空。
鬱蒼と茂る木。
赤を横切る鳥の影。
のったり浮かぶ、薄紫の雲。
今にも消えそうな、小さな、すごく小さな、一番星。
どうやら、私は仰向けに倒れてるらしい。
冷たい土の感触。少し冷たい風。夜はもうすぐ、今は夕方。
私は寝てたようだ。いつのまに? どれくらい?
「……なんか、つかれた…………」
体が、ものすごくだるい。上手く頭も回らない。冷たくて、熱い。痛いようで、痛くない。
疲れた。すごく、疲れてる。
考える事をを放棄して、私は再び目を閉じた。
やっと会えたな。
可愛そうな朱美ちゃん。
撃つよ。私は、撃つ!
死にたくないよ。死にたくないの。
ねぇわかってよ。どうして?
お願いだから、
小野寺、あんた自分が何したかわかってるの!?
さよ、だめだやめて!!
お前も同罪だろ?
――ごめん、理恵。
「!!」
私は目を見開いた。睡魔は一瞬で消え、がばっと体を起こす。
「うっ……!」
同時に激痛。眩暈。吐き気。
いろんなものが、一気に襲い掛かってきた。
なんだ? なんなんだ? 今の?
なに、夢?
「……ちがう」
知らず知らずに呟く。違うって、何が?
木、木。風が吹いて、ざわざわ揺れる。
どこからか、鳥の鳴き声。家に帰る、鳥の声。
もう薄暗く、周りは木しかない。木の向こうは、暗くて見えない。
ここ、どこ?
首を振る。頬をたたく。
しっかりしろ、私!
前を見る、木がある。
上を見る、木と、赤い空が見える。
右を見る。木と、赤い……
「あ」
何かが、私の中で弾けた。
「……嫌だ、嫌」
だけど私は、無意識のうちにそれを抑えた。
立ち上がる。痛い。
走り出す。痛い。
木々の合間を駆け抜け、走って、走って。
木。木。木。木。
ここは何?
さっきのは夢?
今のこれは夢?
どれが夢? 何が現実?
誰かいないの?
助けて、だれか、助けて……。
「うわっ」
何かに足を引っ掛けて、私は盛大に転んだ。
痛い、痛い痛い。
涙が溢れ出す。私は、馬鹿みたいに泣きだした。
怖い、怖いよ。
涙で顔をぐしゃぐしゃにして、私はよろよろ立ち上がる。
何に躓いたのか、振り向く。
なんで、ふりむいちゃったんだろう。
かくん。
膝が土に着いた。
ぺたん。
尻餅もついた。
がくん。
体中の力が抜けた。
死体だった。
死体だった。
死体だよね、これ?
死んでるんだよね? このヒト。
「は、ははは……」
私は笑う。私、こわれちゃったみたい。どんな夢みてんだよ。
私は見渡す。一つじゃない。数人分の死体だ。
胸を真赤にした、桜井くん。
頭右半分をなくした桃子ちゃん。
お腹をズタズタに裂かれた早苗ちゃん。
少し離れたところに、額からナイフをはやして由美が倒れていた。
『理恵、絶対だよ? 約束だよ! みんなで恋愛成就するんだからね。理恵も愛なんかに負けるなよー?』
バスの中。由美が言ってた。
バス。そう、修学旅行で、京都に。
でも、私たちは。
溢れる涙が、止まった。
かわりに体が震えだす。
忘れたふりなんてやめなよ。
知ってるんでしょ?
覚えてるでしょ?
そうだよ、私たちは……
『おめでとう! 君たちは選ばれたんだ!! さぁ楽しもうじゃないか、このゲームを!』
『この、殺し合いを!』
そう、だから私たちは。
そして、私は。
「違う」
何が違うの?
「私は、殺してない。なにもしてない」
何でそんな事がいえるの?
「だって、そんなの。絶対……!!」
でも私、生きてるよ。
みんな死んでる。でも私、生きてるよ。
私が殺したの。
みんな、私が殺したの。
「違う! 違う違う!!」
頭を抑え、泣き叫ぶ。
鳥が飛び立つ。私から離れる。
まるで私を、脅えるかのように。
おかしい、おかしい。
私は何をした?
「ここ」で、いったい何を!?
どうして、どうして、
どうしてなにも……
「なんで、思い出せないの……?」
プツッ――
「あー。じゃ6時の放送始めまーす。ちゃんと聞けよバカども!!」
放送だ。ああ、これ、私知ってる。
プログラムだから、定期的に放送があるの。
「まずは死亡者な。男子、七番の桜井衛。十四番の藤原俊介。十七番の三木久典。
次は女子、三番の大原由美。四番の亀田朋。五番の近藤早苗。六番の佐川桃子。
女子十一番の長谷朱美と十五番の藤巻小夜子。以上九名!」
夕方。森の中。
死体に囲まれ、私は一人。
生きてる人は、私だけ。
なら、殺人犯も私だけ?
「つーまーり、残りの二人とゆーことだ!!
わかったか? 男子十番の堂本直樹と女子七番の滝沢理恵! 委員長コンビの二人!
あと十九時間以内に決着つけないと二人ともドカーンだからなー?
じゃー次、禁止エリアの発表なー……」
……え?
【残り二人 残り時間18:57】