1.さらさらと 積もる想いと 時の砂





 何かが、私の頬を触れた。

 起きて。

 誰かが言った気がした。













































 「……………………夢……?」

   私は目を覚ます。
 目を開けると日差しが容赦なく降り注ぎ、私は目を細め、手をかざす。





 赤い光、赤い空。
 鬱蒼と茂る木。
 赤を横切る鳥の影。
 のったり浮かぶ、薄紫の雲。

 今にも消えそうな、小さな、すごく小さな、一番星。







 どうやら、私は仰向けに倒れてるらしい。
 冷たい土の感触。少し冷たい風。夜はもうすぐ、今は夕方。

 私は寝てたようだ。いつのまに? どれくらい?

「……なんか、つかれた…………」

 体が、ものすごくだるい。上手く頭も回らない。冷たくて、熱い。痛いようで、痛くない。
 疲れた。すごく、疲れてる。

 考える事をを放棄して、私は再び目を閉じた。













































       やっと会えたな。




                                                可愛そうな朱美ちゃん。




                          撃つよ。私は、撃つ!


 死にたくないよ。死にたくないの。


                                        ねぇわかってよ。どうして? 







  お願いだから、

                    小野寺、あんた自分が何したかわかってるの!?




    さよ、だめだやめて!!







                                                  お前も同罪だろ?






















――ごめん、理恵。






















「!!」

 私は目を見開いた。睡魔は一瞬で消え、がばっと体を起こす。

「うっ……!」

 同時に激痛。眩暈。吐き気。
 いろんなものが、一気に襲い掛かってきた。


 なんだ? なんなんだ? 今の?

 なに、夢?

「……ちがう」

 知らず知らずに呟く。違うって、何が?




木、木。風が吹いて、ざわざわ揺れる。
どこからか、鳥の鳴き声。家に帰る、鳥の声。
もう薄暗く、周りは木しかない。木の向こうは、暗くて見えない。









 ここ、どこ?




 首を振る。頬をたたく。
 しっかりしろ、私!

 前を見る、木がある。

 上を見る、木と、赤い空が見える。

 右を見る。木と、赤い……











「あ」

何かが、私の中で弾けた。

「……嫌だ、嫌」

だけど私は、無意識のうちにそれを抑えた。











 立ち上がる。痛い。
 走り出す。痛い。
 木々の合間を駆け抜け、走って、走って。
 




木。木。木。木。
ここは何?
さっきのは夢?
今のこれは夢?

どれが夢? 何が現実?

誰かいないの?
助けて、だれか、助けて……。























「うわっ」

 何かに足を引っ掛けて、私は盛大に転んだ。



 痛い、痛い痛い。
 涙が溢れ出す。私は、馬鹿みたいに泣きだした。
 怖い、怖いよ。

 涙で顔をぐしゃぐしゃにして、私はよろよろ立ち上がる。
 何に躓いたのか、振り向く。















なんで、ふりむいちゃったんだろう。






かくん。
膝が土に着いた。

ぺたん。
尻餅もついた。

がくん。
体中の力が抜けた。






 死体だった。
 死体だった。
 死体だよね、これ?
 死んでるんだよね? このヒト。








「は、ははは……」

 私は笑う。私、こわれちゃったみたい。どんな夢みてんだよ。

 私は見渡す。一つじゃない。数人分の死体だ。



胸を真赤にした、桜井くん。
頭右半分をなくした桃子ちゃん。
お腹をズタズタに裂かれた早苗ちゃん。

少し離れたところに、額からナイフをはやして由美が倒れていた。










 『理恵、絶対だよ? 約束だよ! みんなで恋愛成就するんだからね。理恵も愛なんかに負けるなよー?』

バスの中。由美が言ってた。
バス。そう、修学旅行で、京都に。




















でも、私たちは。








 溢れる涙が、止まった。
 かわりに体が震えだす。


忘れたふりなんてやめなよ。

 知ってるんでしょ?
 覚えてるでしょ?
 そうだよ、私たちは……














『おめでとう! 君たちは選ばれたんだ!! さぁ楽しもうじゃないか、このゲームを!』

『この、殺し合いを!』












そう、だから私たちは。
そして、私は。

































          「違う」

何が違うの?

    

    「私は、殺してない。なにもしてない」

何でそんな事がいえるの?



     「だって、そんなの。絶対……!!」

でも私、生きてるよ。
みんな死んでる。でも私、生きてるよ。



















私が殺したの。
みんな、私が殺したの。

























「違う! 違う違う!!」

 頭を抑え、泣き叫ぶ。
 鳥が飛び立つ。私から離れる。
 まるで私を、脅えるかのように。



おかしい、おかしい。
私は何をした?
「ここ」で、いったい何を!?

どうして、どうして、
どうしてなにも……














「なんで、思い出せないの……?」


















プツッ――

「あー。じゃ6時の放送始めまーす。ちゃんと聞けよバカども!!」



放送だ。ああ、これ、私知ってる。
プログラムだから、定期的に放送があるの。



「まずは死亡者な。男子、七番の桜井衛。十四番の藤原俊介。十七番の三木久典。
次は女子、三番の大原由美。四番の亀田朋。五番の近藤早苗。六番の佐川桃子。
女子十一番の長谷朱美と十五番の藤巻小夜子。以上九名!」





夕方。森の中。
死体に囲まれ、私は一人。



生きてる人は、私だけ。
なら、殺人犯も私だけ?






「つーまーり、残りの二人とゆーことだ!!
 わかったか? 男子十番の堂本直樹と女子七番の滝沢理恵! 委員長コンビの二人!
 あと十九時間以内に決着つけないと二人ともドカーンだからなー?
 じゃー次、禁止エリアの発表なー……」




























……え?


【残り二人 残り時間18:57】